「70歳を過ぎたら、部屋を借りようとしても断られる」。そんな話を聞いて、不安になった方もいるかもしれません。
実際、国土交通省の調査では、大家さんの約7割が高齢者に貸すことに「拒否感がある」と答えています。ただ、理由をたどっていくと、大家さんが心配しているのは「年齢」そのものではありません。「入居者が部屋で亡くなったあと、誰が何をしてくれるのか分からない」という点です。
2025年10月に改正住宅セーフティネット法が施行されてから、まもなく1年になります。この記事では、大家さんが何を心配しているのか、国がどんな仕組みを用意したのか、そして借りる側が何を備えておけばいいのかを、宅地建物取引士でもある行政書士の立場から整理します。
大家さんが断る本当の理由
国土交通省の調査では、高齢者の入居を制限している大家さんの約9割が、その理由に「部屋の中での死亡事故などへの不安」を挙げています。家賃の滞納よりも、亡くなったあとのことが心配されているのです。
なぜそこまで心配されるのか。理由は、法律上の仕組みにあります。
部屋を借りる権利と荷物は「相続」される
入居者が亡くなっても、賃貸借契約は自動的には終わりません。部屋を借りる権利(賃借権)も、部屋に残された家具や荷物も、相続人に引き継がれます(民法896条)。
そのため大家さんは、入居者が亡くなったからといって、勝手に契約を終わらせたり、荷物を片づけたりすることができません。相続人が複数いれば、契約の解除は相続人全員に対して行う必要があります(民法544条1項)。
相続人が分からないと、募集も片づけもできない
ひとり暮らしの方の場合、まず相続人を探すところから始まります。戸籍をたどって相続人が見つかっても、遠方に住んでいたり、連絡がつかなかったり、相続放棄をされたりすることもあります。
相続人がいない場合は、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てることになり、数十万円から100万円程度の予納金が求められることもあります。そのあいだ部屋は次の人に貸せず、家賃も入りません。
大家さんにとっての本当のリスクは、「亡くなること」ではなく、「亡くなったあと、何か月も部屋が動かせなくなること」なのです。
「事故物件になる」は本当か
もう一つよく聞く心配が、「部屋で亡くなると事故物件になって、次の人に貸せなくなる」というものです。
これについては、国土交通省が2021年に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を定めています。老衰や病気による自然死、自宅の階段での転倒や入浴中の事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中での不慮の死については、原則として次の入居者に告げなくてよいとされています。自宅で亡くなる人の多くはこうした自然死であり、住まいで人が亡くなるのは当たり前のことだ、という考え方です。
ただし、亡くなってから発見が遅れて特殊清掃が必要になった場合などは例外で、賃貸ではおおむね3年間は告げる必要があるとされています。
つまり、大家さんの心配を小さくするいちばんの方法は、「もしものとき、早く見つけてもらえること」と、「そのあとの手続きを誰がするか決まっていること」の2つです。
国が用意した仕組み
こうした大家さんの不安を減らすために、国はいくつかの仕組みを用意しています。
残置物の処理等に関するモデル契約条項(2021年)
国土交通省と法務省が2021年6月に公表した、契約書のひな形です。主に60歳以上の単身の方が部屋を借りる場面を想定しています。
入居のときに、次の2つの契約を結んでおきます。
- 解除関係事務委任契約:入居者が亡くなったとき、賃貸借契約を終わらせる手続きを任せる契約
- 残置物関係事務委託契約:部屋に残った荷物の片づけや、相続人への引き渡しを任せる契約
任せる相手(受任者)は、推定相続人が第一の候補です。頼める親族がいない場合は、居住支援法人や管理会社などの第三者が想定されています。なお、大家さんと入居者の相続人は利害がぶつかる立場にあるため、大家さん自身を受任者にすることは避けるべきとされています。
「委任は本人が亡くなると終わる」のが民法の原則ですが(民法653条)、亡くなったあとの事務を頼む契約は有効と認められています(最高裁平成4年9月22日判決)。モデル契約条項は、この考え方を賃貸の場面に当てはめたものです。
改正住宅セーフティネット法(2025年10月施行)
2025年10月1日に施行された改正法では、次のような仕組みが整えられました。
- 居住サポート住宅:居住支援法人などが、センサーなどを使った安否確認や訪問による見守りを行い、必要に応じて福祉サービスにつなぐ賃貸住宅です。
- 居住支援法人による残置物処理:残置物の処理が、居住支援法人の業務として正式に位置づけられました。
- 認定家賃債務保証業者:高齢者などが使いやすい家賃保証会社を国が認定する制度です。居住サポート住宅の入居者の保証は、原則として引き受けることになっています。
- 終身建物賃貸借:入居者が亡くなったときに契約が終わる(相続されない)賃貸借で、利用しやすくするための見直しが行われました。
どれも「亡くなったあと次の人に貸せない」「発見が遅れる」という大家さんの不安に、正面から応える仕組みです。
借りる側ができる備え
国の仕組みは、大家さん側が使うかどうかを選ぶものがほとんどです。借りる側としては、「自分の場合は、もしものときこうなっています」と大家さんに示せる状態を作っておくことが、いちばんの備えになります。
1. 亡くなったあとの手続きを任せる人を決めて、契約にしておく
契約の解約、荷物の片づけ、家賃や公共料金の精算などを任せる「死後事務委任契約」を結んでおきます。部屋の解約と残置物の処理を内容に含めておくのがポイントです。大家さんがモデル契約条項を使っていない物件でも、借りる側から「ここまで決めてあります」と示すことができます。
任せる相手は、親族のほか、信頼できる友人やパートナー、専門家、居住支援法人などが考えられます。片づけや精算の費用をどう用意するか(預けておくお金など)も、あわせて決めておくと安心です。
2. 緊急連絡先を決めておく
入居の申し込みでは、ほぼ必ず緊急連絡先を聞かれます。親族に頼めない場合は、誰にお願いするかを早めに決めて、本人の了解をとっておきましょう。
3. 見守りの手当てをしておく
見守りサービスや、電気・水道の使用状況で異変を知らせるサービスなど、「何かあったら早く気づいてもらえる」仕組みを用意しておきます。先ほどの告知ガイドラインのとおり、早く見つけてもらえることは、大家さんにとって大きな安心材料です。居住サポート住宅を探してみるのも一つの方法です。
4. それを「書面」で見せられるようにしておく
口で「大丈夫です」と言うより、契約書の写しや見守りサービスの案内など、形のあるものを示せる方が伝わります。受け止め方は大家さんや管理会社によって違いますが、「この人は、もしものときのことまで考えている」と分かってもらえることは、入居審査で確実にプラスに働きます。
ペットと暮らす方、二人で住む方へ
ペットと一緒に住みたい方は、大家さんにとって「入居者が亡くなったとき、この子はどうなるのか」という心配が一つ増えます。飼っている子の種類・頭数・予防接種・しつけの状況に加えて、もしものときの引き取り先を決めておくと、話が進みやすくなります。引き取り先の決め方は、ペット信託は必要?愛犬・愛猫に備える「負担付遺贈」という選択肢で解説しています。
同性パートナーや事実婚のお二人で住む場合、法律上の家族ではないために、入居の場面で関係を説明しなければならないことがあります。自治体のパートナーシップ制度の受領証や、お二人で結んだ契約書など、関係を示せる書面を用意しておくと安心です。また、どちらかが亡くなったとき、残された方がそのまま住み続けられるとは限りません。住まいのことも含めて、お互いのための備えをしておくことが大切です。
まとめ
「高齢だと部屋を借りられない」と言われる背景には、年齢そのものではなく、「亡くなったあとに部屋が動かせなくなる」「発見が遅れる」という大家さんの不安があります。
国もモデル契約条項や改正住宅セーフティネット法で、この不安を減らす仕組みを整えてきました。借りる側も、亡くなったあとの手続きを任せる人を決め、見守りを手当てし、それを書面で示せるようにしておくことで、大家さんに「この人なら貸せる」と思ってもらいやすくなります。
おひとりさまの終活全体の備え方は、おひとりさまの終活、何から始める?でまとめています。
住まいの入口から最期の手続きまで、はやぶさオフィスでのお手伝いの内容は終活のページをご覧ください。
参考:国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」/国土交通省「住宅セーフティネット制度」/国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
執筆者:齊藤隼人(行政書士・宅地建物取引士/行政書士はやぶさオフィス代表)
下記よりお気軽にお問い合わせください
LINEで無料相談 メールフォームから相談
※LINEは24時間以内に担当者よりお返事いたします。
※ご依頼に際しては、プライバシーポリシーおよび
特定商取引法に基づく表記をご確認ください。

