「もし自分が倒れたら、病院には誰が来てくれるんだろう」
「親を見送ったとき、手続きの多さに驚いた。自分のときは、誰がこれをやるんだろう……」

ひとりで暮らす方の終活は、「まだまだ先の話」と思われがちです。けれど、備えが必要になるきっかけは、老いよりもずっと早くやってくることが少なくありません。急な入院、親の看取り、賃貸の更新。そうした場面に直面して初めて、世の中の法律や手続きが「家族がいること」を前提にできているのだと気づく方が多いのです。

ひとりで人生の最期まで、を設計することは、もう決して特別なことではありません。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65歳以上の世帯のうち「一人暮らし(単独世帯)」の割合は、2020年の35.2%から2050年には45.1%に上がると見込まれています。さらに、高齢の単独世帯に占める未婚の方の割合も、女性では11.9%から30.2%へと大きく上昇する見通しです(「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6年推計」)。

なお、この記事でいう「おひとりさま」には、頼れる親族がいない方だけでなく、「親族はいても頼みたくない方」や、「パートナーはいるけれど法律上の家族ではない方」(事実婚・同性パートナーなど)も含みます。法律の上では、どちらも「家族がいない」のと同じ扱いになってしまう場面があるからです。

何も備えないと、どうなるのか?

まず、何の備えもしないまま時間が過ぎた場合、具体的にどのようなリスクが生まれるのかを確認しておきましょう。

  • 入院や施設入所のとき:申込書にある「身元保証人」や「緊急連絡先」に書ける人がおらず、手続きが滞ってしまう。
  • 判断能力が落ちたとき:自分の預金の引き出しや契約ができなくなる。代わりに支援する人は、家庭裁判所が選ぶ(法定後見)。
  • 亡くなったとき:法律上、死亡届を出せる人が限られている。遺体の引き取り手がいない場合、自治体が火葬を行う(墓地、埋葬等に関する法律9条)。
  • その後:遺言がなく相続人もいない場合、財産は清算手続きを経て国庫(国の金庫)へ(民法959条)。長年一緒に暮らしたパートナーであっても、当然には受け取れない。

どれも「誰かがなんとなくやってくれるだろう」では動かないのが現実です。この問題を整理するために、時間の流れに沿って3つの「空白」に分けて考えていきましょう。

空白1:生きているあいだ(入院・判断能力の低下)

入院のときの「身元保証人」問題

病院で身元保証人を求められ、頭を抱えた経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。まず知っておいていただきたいのは、「身元保証人がいない」という理由だけで病院が入院を拒むことは、医師法19条1項(応招義務)に違反するという厚生労働省の見解です(平成30年4月27日付 医政医発0427第2号)。

しかし、病院側が保証人を求めるのにも切実な理由があります。緊急時の連絡、入院費の支払い、退院先の調整、万一のときの遺体や荷物の引き取り……こうした現場の役割を担う人が必要だからです。

つまり、「身元保証人」という1人の完璧な人を探すのではなく、役割ごとに「誰が何を担当するか」を決めておくほうがずっと現実的です。

  • 緊急連絡先:信頼できる知人・パートナー、または見守り契約を結んだ専門家
  • 支払い・資金管理:財産管理委任契約を結んだ相手
  • 万一のときの引き取り:死後事務委任契約の受任者

あらかじめこのような書面を用意しておけば、病院や施設に対しても「この人がこの役割を担います」と明確に示せるため、スムーズに対応してもらえます。

判断能力が落ちてしまったとき

認知症や病気などで判断能力が低下すると、ご自身で契約を結ぶことも、銀行から預金を引き出すことも難しくなります。何も準備がない状態から利用するのは「法定後見」という仕組みで、誰が支援者になるかは家庭裁判所が決めます。

※なお、法定後見制度については2026年6月に民法等の改正法が成立し、必要な期間・範囲だけ利用できる仕組みへ見直されることになりました(2028年ごろ施行予定)。

ただし、制度が使いやすくなったとしても、「自分が信頼する人に託す」と生前に契約で決めておけるのは、任意後見契約だけです。パートナーや信頼できるご友人、専門家を指定することができます。

任意後見契約は「公正証書」で結ぶ必要があり(任意後見契約に関する法律3条)、実際に効力がスタートするのは、判断能力が落ちて家庭裁判所が監督人を選んでからです。そのため、実務ではその「前後の期間」を埋めるために、次の3つをセットで組み合わせるのが一般的です。

  • 見守り契約:元気なうちから定期的に連絡を取り、健康状態や変化にすぐ気づけるようにする
  • 財産管理委任契約:判断能力はあるけれど、身体が自由に動かない時期の支払いや手続きを任せる
  • 任意後見契約:判断能力が低下した後の財産管理や法的な契約を任せる

空白2:亡くなった直後(数日〜数週間)

まず「誰が最初に気づくか」

一人暮らしで真っ先に直面するのが、「亡くなったことに誰が気づくか」という問題です。発見が遅れると手続き全般が遅れるだけでなく、もし自宅にペットがいる場合はその命に直結します。定期的に連絡を取り合う「見守り契約」は、こうした万一の早期発見という観点でも大きな意味を持ちます。

死亡届を出せる人は決まっている

法律上、死亡届を出す義務があるのは、同居の親族、その他の同居者、家主・地主・管理人などです。また、同居していない親族や後見人のほか、「任意後見受任者」(任意後見の契約を結んでいる相手)も届け出ることができます(戸籍法87条)。

これは2020年5月の改正で追加されたルールで、任意後見の効力が生じる前(元気なうち)であっても、契約相手であれば死亡届を出せるようになりました。

逆に言えば、どんなに親しいご友人であっても、同居していなければ死亡届を出す権利がありません。任意後見契約を結んでおくことは、生前だけでなく「亡くなった直後の手続き」をスムーズにつなぐためにも不可欠なのです。

遺言ではカバーできない手続を「死後事務委任契約」で

「遺言書」で指定できるのは、主に「財産の分け方」です。しかし、実際の現場で発生する以下のような手続きは、遺言書だけでは動かせません。

  • 葬儀や火葬の手配
  • 病院や介護施設への未払い金の精算
  • 賃貸マンションの解約や部屋の片づけ
  • 電気・ガス・水道やサブスクの解約手続き
  • SNSアカウントの削除や削除依頼

これらを生前に託しておくのが「死後事務委任契約」です。

一般的な委任契約は本人の死亡によって終了するのが原則ですが(民法653条1号)、最高裁判所の判例(最判平成4年9月22日)により、「本人の死後の事務を依頼する契約は、死亡によって終了しない」とする合意が有効と認められています。そのため、契約書に「本人の死亡によっても契約を終了させない」旨を明記して締結します。

空白3:その後(財産・部屋・ペットのゆくえ)

財産:遺したい相手がいるなら「遺言」が絶対条件

相続人が誰もいない場合、遺された財産は清算手続きを経て、最終的に国庫(国の財産)に入ります。内縁のパートナーなどが「特別縁故者」として財産分与を家庭裁判所に申し立てる道もありますが(民法958条の2)、認められるかどうかや金額の判断は裁判所次第となります。

大切なパートナーや友人、あるいはお世話になった団体に財産を譲りたい場合は、あらかじめ遺言書で指定しておくことが絶対条件です。万全を期すためにも、改ざんや紛失のリスクがほとんどない「公正証書遺言」をおすすめしています。

賃貸のお部屋と残された荷物

賃貸にお住まいの方が亡くなると、お部屋の賃貸借契約や室内の荷物(残置物)の所有権は、そのまま相続人に引き継がれます。しかし、相続人がいない(または連絡が取れない)場合、大家さんは勝手に契約を解除することも、部屋の荷物を処分することもできません。これが、高齢者やおひとりさまの賃貸契約が厳しくなりがちな理由の一つです。

この課題を解決するため、国土交通省・法務省は2021年に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しました。本人が亡くなった後の契約解除や荷物の処分を、あらかじめ指定した受任者に委ねる仕組みです。死後事務委任契約にこの条項を入れておくことで、お部屋を借りる際にも大家さんへ「万一のときの備えができています」と安心して提示することができます。

愛するペットのゆくえ

ペットと暮らしている方にとって最も心配なのは、「自分が死んだ後、この子を誰が世話してくれるのか」ということではないでしょうか。「誰に託すか」ということと、「そのための飼育費をどう渡すか」をセットで決めておく必要があります。

ペットを託す信頼できる相手がいる場合の具体的な遺言の書き方については、以下の記事で詳しく解説しています。
ペット信託は必要?愛犬・愛猫に備える「負担付遺贈」という選択肢

身元保証サービスを検討するときの注意点

最近では、身元保証や死後事務をまとめて引き受ける民間事業者やNPO法人なども増えてきました。大変便利である一方、預けたお金の管理方法や、途中で解約した際の返金をめぐるトラブルも報告されています。

こうした状況を受け、2024年6月に関係府省庁より「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」が策定されました。契約内容の十分な説明や預託金の適切な管理などが求められ、寄附や遺贈を契約の条件にすることは避けるべきだと示されています。

事業者の利用を検討する際は、最低限以下のポイントを確認しておくと安心です。

  • どのような作業をどこまで対応してくれるか、それぞれの費用は明瞭か
  • 預けたお金(事前預託金)が、事業者の自社資産と明確に分別管理されているか
  • 途中で契約を解除した場合、どの程度返金されるか
  • 遺言での寄附や遺贈を強引に勧められていないか

事業者にパッケージで一括お任せするのも、信頼できる個人(知人・パートナー)と専門家を組み合わせて備えるのも、どちらが良いかは人それぞれです。仕組みとリスクを正しく理解した上で選ぶことが大切です。

何から始めればいい? 3つのステップ

すべての備えを一度に完璧に揃える必要はありません。まずは以下の順番で頭の中を整理してみましょう。

  1. 頼れそうな人を書き出してみる
    親族、パートナー、友人など。「この人には緊急連絡先になってもらう」「この人にはペットをお願いする」など、頼める範囲まで具体的に考えてみます。
  2. 一番不安な「空白」を1つ決める
    ペットがいるなら「亡くなった直後」、賃貸暮らしなら「部屋の片づけ」、持病があるなら「入院時や認知症」など、自分が最も不安を感じる場面を絞り込みます。
  3. その場面を埋める書面から作成する
    まずは一番不安な場面を解消する書面を1通つくるだけで、気持ちの焦りはぐっと軽くなります。
時期・場面直面するトラブル有効な備え(書面)
生きているあいだ入院時の連絡・支払い、認知症などによる判断能力の低下見守り契約/財産管理委任契約/任意後見契約
亡くなった直後発見の遅れ、死亡届、葬儀・火葬、未払い金の精算死後事務委任契約(+任意後見契約)
その後(数ヶ月〜)遺産相続、賃貸部屋の解約・荷物整理、ペットの保護公正証書遺言(負担付遺贈)/残置物処理条項

まとめ

  • おひとりさまの終活は、「生きているあいだ」「亡くなった直後」「その後」の3つの空白に分けて考える
  • 身元保証人がいないことだけを理由に入院を断ることは原則禁止。必要な役割ごとに担い手を決めておく
  • 自分が元気なうちに信頼できる支援者を選べるのは「任意後見契約」
  • 葬儀やお部屋の解約など、遺言書では対応できない死直後の手続きは「死後事務委任契約」で備える
  • 財産を渡したい相手がいる場合は「遺言書」が必須。賃貸住まいの方は「残置物」の対策も忘れない

「何から手をつければいいのか全くわからない」という段階でのご相談も大歓迎です。今どんな空白があるのかを一緒に整理するだけでも、次にやるべきことがすっきりと見えてきます。ご相談いただいたからといって、そのままご依頼いただく必要は全くありませんので、どうぞご安心ください。

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執筆者
齊藤 隼人(行政書士はやぶさオフィス 代表)
行政書士/宅地建物取引士。東京都大田区にて、ペットと暮らす方・おひとりさま・同性パートナー・事実婚の方の住まいと終活を扱っています。犬2頭と暮らしています。

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