海外への旅行・引越し・赴任に、大切な家族であるペット(犬・猫)を連れていきたい——。
しかし、いざ調べ始めると「検疫」「ワクチン」「書類」「出国手続き」など、複雑で不安な情報が多く、どこから手を付けるべきか迷う方が非常に多いのが実情です。

本記事では、犬・猫に共通する海外渡航の基本手続きをベースにしつつ、
より説明しやすい犬のケースを中心に、出国までの流れを最初から順番に「ざっくり」かつ体系的に解説します。

なお、狂犬病予防接種・マイクロチップの義務、追加抗体検査などは犬に特有の部分もあり、猫では省略可能な手続きもあります。
記事内で随時「猫の場合の違い」にも触れていきます。


1.海外渡航の準備は“出発の半年〜1年以上前”から

海外にペットを連れて行くための最初のポイントは、とにかく準備期間が長いということです。
特にEU/英国/シンガポール/オーストラリアなどは厳格な検疫基準があり、一般的に必要な準備期間は以下の通りです。

  • EU・英国:4〜7か月
  • シンガポール:6か月以上
  • オーストラリア・ニュージーランド:最長7〜12か月
  • アメリカ・カナダ:1〜3か月(ただし犬の狂犬病歴により大きく変動)

特に犬の場合は狂犬病抗体価検査(採血)から180日〜旅程次第で210日待機が必要な国が多く、
出発1か月前に急に準備を始めても間に合わないのが現実です。
「思ったより早く海外転勤が決まった」というケースでは、渡航そのものの日程を調整する必要が出るほどです。

猫は犬に比べて狂犬病に関する規定が簡略されている国も多いものの、
“猫なら簡単”というわけではないため、必ず渡航先の公式ルールを確認してください。


2.渡航準備の最初のステップは「マイクロチップ登録」

すべての国で共通して最初に必要になるのが、ISO規格(ISO11784/11785)のマイクロチップです。

日本国内で一般的に使われているマイクロチップはISO規格に対応しているため問題ありませんが、
狂犬病ワクチンよりも前にチップを装着することが鉄則です。
これは犬猫の個体識別を厳重に行うためで、接種より後付けだとワクチンが“無効扱い”になる国があります。

猫の場合も、輸出入の際には犬と同じくチップによる個体識別が基本です。


3.狂犬病ワクチンの接種(犬は必須/猫は国により不要)

犬の場合はほぼ必ず必要となるのが、狂犬病ワクチンの接種です。
国により「初回接種→30日後→抗体検査→待機180日」のような細かいルールがあります。

猫は、狂犬病が存在しない国を出入りする場合には不要とされるケースもありますが、
アメリカ・カナダ・EUなど多くの国では猫でも狂犬病ワクチンが必要なので要確認です。


4.狂犬病抗体価検査(犬はほぼ必須・猫は国により不要)

犬の場合、もっとも時間がかかるのが「狂犬病抗体価検査」です。
採血後、指定機関で検査を行い、基準値(0.5IU/ml 以上)を満たす必要があります。

重要なのは、国によっては抗体価が確認できてから180日以上の待機が必要なことです。
これは日本を含む「狂犬病清浄国」へ入国する場合、特に厳格に求められます。

猫の場合、抗体価検査そのものを要求しない国もありますが、
犬と同様に「必要な国では必須」です。


5.輸出前検査・英文検査証明書の発行

出発の7日以内(国により異なる)に、動物検疫所での「輸出前検査」が必要です。
ここでは、過去のワクチン・抗体価・健康状態などが全て確認され、問題がなければ英文の輸出検疫証明書が発行されます。

渡航先によっては、獣医師に英文ヘルスサーティフィケート(健康証明書)を作成してもらう必要がある場合もあります。
航空会社によりフォーマットが違うケースもあるため、事前確認が欠かせません。

※猫の場合

狂犬病関連以外の検査内容は犬猫でほぼ共通です。
ただし国により「猫はワクチンのみで良い」「抗体検査不要」など違いがあります。


6.航空会社・機体によるルールの違いに注意

ペット渡航では、航空会社・路線・機体の仕様により、受け入れ条件が大きく異なります

  • 大型犬は貨物室のみ(客室不可)
  • 犬種制限(短頭種など)
  • ケージの規格(IATA基準)
  • 路線ごとの繁忙期ルール
  • 夏季・冬季の温度規制

特に大型犬オーナーは要注意で、「乗れる航空会社が実は限られている」というケースも多くあります。
渡航先や季節によっては、航空会社の選択肢がほぼ1〜2社まで縮まることも珍しくありません。

猫の場合は体重・サイズが小さいため比較的選択肢が広いですが、ケージサイズ・客室同伴の規定は必ず確認してください。


7.目的国での輸入検疫手続き

出国が済めば終わりではなく、到着後に輸入検疫があります。
国によって必要書類・申請フォーム・事前予約が大きく変わるため、ここは最もミスが起きやすいポイントです。

  • 事前電子申請が必須の国(アメリカ・カナダ等)
  • 到着前72時間以内に提出が必須の国
  • 特定空港以外に到着すると輸入不可の国
  • 日本発の証明書に加えて独自の書類を要求する国

特にEU・英国は細かく、書類の不備があるとその場で入国拒否・返送となるケースすらあります。
ここは行政書士に依頼されるご相談が最も多い領域です。


8.まとめ:ペットの海外渡航は“情報整理”が命

犬猫を海外へ連れていく手続きは、「マイクロチップ → ワクチン → 抗体価 → 待機 → 出国 → 到着」の一連の流れを、絶対に順番を間違えずに進める必要があります。

特に犬の場合は狂犬病関連の要件が厳しく、準備が半年〜1年以上に及ぶことも。
一方で、猫は犬より要件が少ない場合もありますが、国によっては犬と同等の厳しさで管理されているところもあります。

ペットの体調・航空会社の規定・渡航先の制度変更など、複数の要素が絡むため、出発前に全体像を把握し、早めに計画を立てることが何より重要です。

本記事が、これから海外へペットを同行される皆さまの不安軽減の一助となれば幸いです。


行政書士はやぶさオフィス
齊藤 隼人

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